沙希は天井を見上げていた。
まるで、おとぎ話の妖精の様に。
「……」
夢想でもしているのだろうか。
空気のように動かずにただ、そこにいる。
「よろしかったのですか?」
部屋に誰かが入ってくる。月晦 静馬だった。
「?」
穏やかに、沙希は彼女に振り向いて首を傾げる。
そうしていれば、外見相応の少女なのに、と静馬は考える。
口には出さなかった。
「あなたが行かなくて、ですよ」
――ああ、と沙希はゆったりと反応する。
「信じてるから」
そうですか。と静馬は頷いた。
「それでも、より確実にはなるでしょう?」
「100%を110%にするのは何の意味もないのに?」
む、と静馬は声を詰まらせた。
「ふふっ」
沙希はその様子を見て笑った。
その時、来客を告げるチャイムが鳴った。
流れる様にゆったりだった沙希は一転、慌ただしく立ち上がり部屋を飛び出し玄関へと駆けていく。
「おかえりなさいっ!!」
聞くだけで表情が想像できそうな、そんな良い声だった。
静馬は先ほどの沙希のように笑って、歩いて部屋を出ていく。
ちらり、と何かが見えた気がした。
了。